地球中心の内核の粘性率を実験により制約
高温高圧変形実験によって決定した六方最密構造鉄 (hcp鉄) のレオロジー
【ポイント】
・固体金属からなる地球内核の複雑な異方的構造がどのようなメカニズムで形成されたのかについては、数多くの仮説が提唱されており混沌としている。
・内核の構造形成メカニズムが不明な原因のひとつは、六方最密構造の鉄でできた内核の粘性率がよくわかっていないことにある。
・本研究では高温高圧変形実験を行ない、内核を構成する六方最密構造の鉄の流動強度と温度、ひずみ速度の関係を幅広い条件下で調べた。
・実験結果に基づくと、内核条件での粘性率は約1019 Pa s以上という高い値が見積もられ、内核の構造形成メカニズムとしては異方的内核成長または並進運動が支持される。
【概要】
高温高圧変形実験により六方最密構造の鉄のレオロジー(流動強度とひずみ速度、温度などの関係)を決定しました。実験結果に基づいた外挿計算によると、地球内核での粘性率は約1019 Pa s以上という高い値が見積もられました。この粘性率の値は、内核における構造形成メカニズムとして、異方的内核成長または並進運動がもっともらしいことを示唆しています。
地球中心に位置する固体金属の内核には、南北方向に伝播するP波が赤道方向に伝播するものに対し約3%も高速となる大きな地震波異方性が存在することがわかっています。この内核の異方性の成因には、さまざまなメカニズムが提唱されていますが、現在までに一致した見解が得られていません。内核の年齢(内核冷却速度の逆数に相当)と内核粘性率の値によって内核で支配的となる力学的なメカニズムが異なるとされていますが、内核年齢と粘性率はよく制約されていません。このため、異方的内核成長、熱対流をはじめとするいくつものメカニズムが現在の内核ダイナミクスの支配的メカニズムである可能性を持っています。内核の粘性率は内核を構成する六方最密構造 (hcp) 鉄の流動変形の力学的性質(レオロジー)によって決まっていると考えられるため、hcp鉄の高温高圧でのレオロジーの理解が必要です。しかし、この物質のレオロジーについての従来の研究は600 K以下の低温に限られており、内核で卓越する変形機構を明らかにするものではありませんでした。本研究では、内核異方性形成メカニズムに制約を与えることを目的として、内核で卓越する変形機構が出現する可能性が高い高温での高圧変形実験を行い、hcp鉄のレオロジーを決定しました。
実験は高エネルギー加速器研究機構、PF-AR、NE7Aに設置されているD111型変形装置 とSPring-8、BL04B1に設置されているD-DIA装置SPEED-MkII-Dを用いて行いました。出発物質として直径0.55 mm、高さ0.5–0.6 mmに成型したbcc鉄焼結多結晶体を用いて、hcp鉄が安定となる高温高圧下で変形実験を行ないました。変形の条件は温度423–923 K、圧力16.3–22.6 GPa、一軸圧縮歪速度1.5 ×10–6–8.8 ×10–5 s–1です。実験中の試料が受けている差応力は約60 keVの放射光単色X線を用いた二次元X線回折により測定し、歪はX線ラジオグラフィーにより決定しました。
それぞれが複数の変形ステップからなる11回の実験を行い、合計37の変形条件での定常流動応力を決定しました。結果をもとに総合的に判断すると、約800 K以上の高温とそれ以下の低温では、それぞれ異なる変形機構が卓越していることが示唆されます。まず、高温機構は格子拡散が律速するべき乗則転位クリープであると考えられます。いっぽう、低温機構は転位芯拡散が律速する低温型転位クリープであると考えられ、また約700 K以下では顕著なべき乗則の崩壊を伴っています。地球内核は融解温度直下の高温状態にあります。内核条件でも高温機構のべき乗則転位クリープが支配的であると仮定し、融点規格化に基づいた見積もりを行うと、内核条件でのhcp鉄の粘性率は約1019 Pa s以上の高い値を持つことが示唆されます。この粘性率の値から、内核の支配的ダイナミクスは「異方的内核成長」(液体の外核からの固体の析出が内核表面の赤道帯で優先的に起こることに起因する変形)または「内核並進運動」(外核に対し内核が移動し内核表面の片側では融解が反対側では析出が生じ続ける状態)である可能性が示唆されます。
参考 URL1: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2022JB026165
論文情報
Rheology of hexagonal close-packed (hcp) iron, Yu Nishihara, Shunta Doi, Noriyoshi Tsujino, Daisuke Yamazaki, Kyoko N. Matsukage, Yumiko Tsubokawa, Takashi Yoshino, Andrew R. Thomson, Yuji Higo, and Yoshinori Tange, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 128, e2022JB026165, doi.org/10.1029/2022JB026165, 2023 (May 30).
助成金等
- JSPS科研費 19H00723, 15H03749, 15H05827
図表等
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hcp鉄のX線ラジオグラフ像
圧力16.5-17.5 GPa、温度823-873 Kでの実験における変形前および変形中のhcp鉄のX線ラジオグラフ像。これらのラジオグラフ像をもとに試料の歪が決定された。
credit : 西原遊(愛媛大学)
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