高融点を示す炭素主鎖骨格ポリマーの合成に成功

【研究のポイント】
●主鎖の立体構造が制御されていないポリマーでは珍しい高融点を示す炭素主鎖骨格ポリマーの合成に成功しました。

【研究の概要】
ポリエチレンやポリプロピレン等の炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーは、汎用プラスチックをはじめとする工業的に非常に重要な材料として利用されています。一般に、高分子材料の強度や耐久性の向上のためには、ポリマーへ結晶性を付与することが有効であり、そのためのアプローチとしてポリマーの立体構造を制御する試みがなされてきました。一方で、ポリマーの立体構造が制御されていない炭素主鎖骨格ポリマーにおいては、高融点を示す例は多くはありません。
このような背景のもと、愛媛大学大学院理工学研究科の下元浩晃准教授と井原栄治教授らの研究グループは、ポリマーの立体構造が制御されていないにも関わらず100 ℃を超えるような高融点を示す新しい炭素主鎖骨格ポリマーの合成に成功しました。具体的には、当研究グループが世界に先駆けて開発したジアゾ酢酸エステルをモノマーとするC1重合法を用い、ポリマー側鎖にアミド結合を導入した炭素主鎖骨格ポリマーを合成することによりこの成果を達成しています。水素結合形成可能なアミド結合の導入によって側鎖の運動性が抑制され、その結果、ポリマーが高い融点を示したものと考えられます。本成果は、炭素主鎖骨格ポリマーの熱的特性に関して新たな知見を与えるとともに、新しいポリマー材料設計への応用を期待させるものです。
なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2023年6月12日に掲載されました。

炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーを合成する最も一般的な手法の一つに、ビニル重合があります。ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用プラスチックをはじめ、工業的に有用な多くのポリマーが、このビニル重合によって合成されています。この手法は、ビニル化合物をモノマーとするため、主鎖骨格が2炭素ユニットごとに構築されます。一方で、当研究グループが世界に先駆けて開発したジアゾ酢酸エステルをモノマーとするC1重合法は、1炭素ユニットごとに主鎖骨格を構築してポリマー(C1ポリマー)を合成する手法です。そのため、すべての主鎖炭素上に官能基を導入することができ、一般的なビニルポリマー(多くの場合1炭素おきに官能基を有する)と比べて、官能基が集積した構造であることによる特徴的な性質や機能の発現が期待されます。
一般に、結晶性を有するポリマー(結晶性ポリマー)は、結晶性を持たないポリマー(非晶性ポリマー)に比べて機械的強度や化学的安定性に優れた性質を示すことが知られています。炭素―炭素結合を主鎖骨格に有するポリマーのうち、主鎖の立体構造が制御されていないポリマー(アタクチックポリマー)の多くは、非晶性ポリマーです。例えばポリプロピレンは、主鎖の立体構造を高度に制御することではじめて結晶性が付与され、その結果汎用プラスチックとして利用される材料となります。最近、C1重合においてもビニル重合と同様に、主鎖の立体構造が制御可能な触媒が開発され、100 ℃を超えるような高い融点を示す結晶性C1ポリマーの報告がなされています。しかし、アタクチックなC1ポリマーでこのような高い融点を示すポリマーの例はこれまでほとんどありません。
このような背景のもと本研究では、ポリマー側鎖にアミド結合を導入することで、主鎖の立体構造を制御しなくても130 ℃ほどの高い融点を示すアタクチックなC1ポリマーの開発に成功しました。これは、分子内あるいは分子間で水素結合形成可能なアミド結合をポリマー側鎖へ導入することで、側鎖の運動性が抑制され、その結果結晶性が高まったためだと考えられます。一方で、全く同じ側鎖構造を有するビニルポリマー(C2ポリマー)ではこのような高融点化の挙動は観測されないことから、これはC1ポリマーに特徴的な熱的性質と言えます。
本成果は、炭素主鎖骨格ポリマーの熱的特性に関して新たな知見を与えるとともに、新しいポリマー材料設計への応用を期待させるものです。なお、本成果は、アメリカ化学会発行のMacromolecules誌電子版へ2023年6月12日に掲載されました。

参考 URL1: 愛媛大学 高分子化学研究室ホームページ

論文情報

Effect of the Alkyl Side-Chain Structure on Melting Point of Atactic Poly(alkoxycarbonylmethylene)s: Incorporation of Amide-Linkage Leading to Polymers with High Melting Point
[アタクチックなポリ(アルコキシカルボニルメチレン)の融点に及ぼす側鎖アルキル構造の効果:アミド結合の導入による高融点ポリマーの合成]
著者:Hiroaki Shimomoto,* Itsuki Katashima, Hirokazu Murakami, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara*
ジャーナル名:Macromolecules
発行日:2023年6月12日(電子版)
DOI: 10.1021/acs.macromol.3c00635

助成金等

  • JSPS科研費 JP18H02021, JP19K05586, JP19K22219, JP21H01988, JP22K05219

図表等

  • ビニル重合とC1重合

    ビニル重合とC1重合

    credit : 下元 浩晃
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  • 高融点を示す炭素主鎖骨格ポリマー

    高融点を示す炭素主鎖骨格ポリマー

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問い合わせ先

氏名 : 下元 浩晃
電話 : 089-927-9949
E-mail : shimomoto.hiroaki.mx@ehime-u.ac.jp
所属 : 愛媛大学大学院理工学研究科