初期地球マグマの酸化状態に関する実験的制約
地球の大気とマントルの酸化状態は、時間と共にどのように変化したのだろうか?
【ポイント】
・地球形成直後のマントルの酸化状態は火山ガス組成に影響を与え、当時の大気を知る重要な手がかり与えてくれるがよくわかっていなかった。
・地球形成期に溶融したマントルが結晶化する際に起こる鉱物-マグマ間の二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)の分配反応を高圧実験によって調べた。
・実験の結果、地球形成期に溶融したマントルは現在と比べてかなり酸化的であり、当時の大気がCO2とSO2に富む現在の金星に似た大気組成を持つことを示唆した。
【概要】
惑星マントル内部の二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)の分布は、火山ガス組成や惑星表面環境に影響を与えます。新たに行われた実験的研究によって、現在と比較してFe3+に富むとても酸化的なマグマの海とそこから固化したマントルが形成したことが示されました。こうした結果は、初期地球大気が現在の金星大気のように非常に酸化的であり、おそらくCO2とSO2に富んでいたことを示唆しています。
惑星内部と表層の結びつきは、惑星表層環境の形成過程を理解する上で重要な鍵となっています。岩石惑星のマントルにおける二価鉄(Fe2+)および三価鉄(Fe3+)の分布は、マントルの酸化状態を制御し、火山ガス組成に影響を与え、さらには水素や炭素などの生命必須元素を含む揮発元素のマントル貯蔵量にも影響を与えています。したがって、形成直後のマントルにおけるFe2+とFe3+の分布を解明することは、生命の誕生と進化を育む地球を理解する上で重要な知見を提供します。
最近の著者らの実験的研究から、地球形成過程で存在したと考えられているマグマの海(マグマオーシャン)は現在の上部マントルよりもFe3+に富んでおり、非常に酸化的であったことが明らかとなりました(Kuwahara et al., 2023, Nat.Geosci.)。この場合、上部マントルの酸化状態はどのようにして現在の状態にまで変化したのでしょうか。この疑問に答えるために、著者らは、マグマオーシャン結晶化の際にFe3+が下部マントルに取り込まれる可能性を実験的に検討しました。
実験の結果、下部マントルで最も豊富な鉱物であるブリッジマナイトは、共存するマグマと比較してFe3+を優先的に取り込まないことがわかりました。このことは地球のマグマオーシャンがFe3+に富んでいた場合、初期地球の上部マントルも非常に酸化的であったことを意味します。このような酸化的なマントルから供給される気体から形成する大気はCO2やSO2に富み、現在の金星のような地表環境を形成していたものと思われます。マグマオーシャンの結晶化過程では上部マントルの酸化状態を下げることができないため、著者らは地球形成後に降着する天体に含まれる金属鉄によって上部マントルが還元されたとする仮説を提案しました。実際に、著者たちは地球上部マントルに含まれる親鉄性元素(これらの元素はほとんどが地球形成過程で金属核に取り込まれると考えられています)の過剰量から推定されている、地球形成後に降着した天体が供給する金属鉄量が現在の上部マントルの酸化状態を説明するのに必要な金属鉄量と同程度であることを示しました。この仮説を検証するためには、初期地球のマントル酸化状態に関するさらなる地質学的制約が必要です。
論文情報
Partitioning of Fe2+ and Fe3+ between bridgmanite and silicate melt: Implications for redox evolution of the Earth’s mantle, Hideharu Kuwahara, Ryoichi Nakada, Earth and Planetary Science Letters, 615, 118197, doi:10.1016/j.epsl.2023.118197, 2023 (August 1).
助成金等
- JSPS科研費 20H01994 and 21K18655
図表等
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高圧実験回収試料の断面組織
下側の暗い部分は結晶化したブリッジマナイトから成り、上側は急冷結晶化したマグマを示す。
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