別府湾海底堆積物が語る過去75年間の海洋マイクロプラスチック汚染の歴史
1960年にはマイクロプラスチックはすでに海底へ到達していた!
1940年から2015年の75年間に別府湾最深部海底(水深70 m)に堆積したマイクロプラスチック(MP)量の変遷を、14本の海底堆積物コアの解析から明らかにしました。最初のMPは1958〜1961年(高度経済成長期)の堆積層から見つかりました。以降、2015年にかけて海底に堆積するMP量は、20年周期で増減を繰り返しながら徐々に増加していました。同様の20年変動が堆積物中の植物プランクトン量にも確認できました。植物プランクトンの多い年にはより多くのMPが沈んでいました。この事実は、これまで室内実験等で提案されてきたMPの沈降メカニズム、すなわちプランクトンなど微細生物がMP表面に付着しMPを重くする、プランクトンなどの死骸が落ちる際にMPを捕捉する、を支持する結果となりました。さらに、MPが1日あたり50〜60 m程度の速度で沈んでいることも突き止めました。観測結果―しかも75年間のーに基づいた微細生物のMP沈降への寄与の可能性の指摘、MP沈降速度の評価は、いずれも世界初の成果です。これらの成果は今後MP動態モデルの開発を加速すると共に、MP影響の将来予測に用いられることが期待されます。
マイクロプラスチック(MP)という言葉が創られたのは2004年です。以降、MPは徐々に社会の関心を集めるようになりました。特に2015年のエルマウサミット以降のMP研究の進展は目を見張るものがあります。ところで将来のMPの海洋環境影響を予測するには、過去の海洋環境中のMPの動態―どこに、どれだけ、どんな大きさの、どんな種類のMPがあり、どのように動いていたかーを知ることが必要です。通常は数値モデルで動態を計算するのですが、計算結果が妥当かどうか過去の観測データと比較して評価する必要があります。適正であれば、その計算モデルに想定しうるプラスチック排出シナリオを与え、将来予測するのです。しかしながら冒頭で述べたように研究が盛んになったのは今世紀に入ってからです。つまり20世紀のMP動態を検証するデータがほとんど存在していなかったのです。
一方で、近年、ポリエチレンやポリプロピレンなど海水よりも軽いMPでさえも海底に沈んでいることが明らかにされました。そこで,我々の研究グループは、海底に堆積した泥を柱状に採取し、MPを抽出するとともに泥が堆積した年代を測定すれば、過去のMP動態の検証データが得られると考えました。2017年から2019年にかけて別府湾最深部の水深70 m地点の海底泥を複数本採取し、MP抽出と堆積層の年代を測定した結果、1940年から2015年までのMP堆積個数(1年間1平方メートルあたり)の変遷を明らかにすることに成功しました。MPのほとんどが海水よりも軽いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(発泡スチロール)でした。複数本のコアサンプルを使用し、正確な年代測定に基づく世界でも最高レベルの精度を誇るMP動態に関する長期データを得ることができました。
最初のMPは高度成長期中の1958~1961年の堆積層から見つかりました。以降、2015年にかけて海底に堆積するMP量は、20年周期で増減を繰り返しながら徐々に増加していました。20年変動には海水中の植物プランクトンが重要な働きをしていました。植物プランクトンの多い年にはより多くのMPが沈んでいたのです。これは、MPの表面に植物プランクトンなどの集合体(バイオフィルム)が形成されたり、糞など様々な凝集物にMPが捕捉されたりすることでMPの沈降を促進しているものと推察されました。海には発泡スチロールさえも沈める力があるのです。MPの沈降量と生物活動との相関関係を長期データに基づいて明らかにしたのは世界で初めてです。
参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969722058508?via%3Dihub
論文情報
A 75-year history of microplastic fragment accumulation rates in a semi-enclosed hypoxic basin, Hirofumi Hinata Michinobu Kuwae, Narumi Tsugeki, Issei Masumoto, Yukinori Tani, Yoshio Hatada, Hayato Kawamata, Atsuomi Mase, Kenki Kasamo, Kazuya Sukenaga, Yoshiaki Suzuki, Science of The Total Environment, 158751, doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.158751, 2022 (September 13).
助成金等
- 環境再生保全機構環境研究総合推進費(4-1502,SII-2)
- JSPS科研費(21H01170、21H05058)
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業(JPNP18016)
図表等
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マイクロプラスチックと植物プランクトンの堆積量―75年間の比較
(A) MP堆積量の変化.(B) クロロフィルa堆積量(赤)と濃度(青)の変化
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海底から見つかったマイクロプラスチックのサンプル
海底から見つかったマイクロプラスチックのサンプル
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植物プランクトンやバクテリアと沈むマイクロプラスチック
マイクロプラスチック堆積過程のイメージ
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問い合わせ先
氏名 : 日向 博文
電話 : 089-927-9835
E-mail : hinata.hirofumi.dv@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科