地球のフッ素、塩素の量はどのように決まったのか?
地球や火星、金星といった惑星はコンドライトと呼ばれる太陽系内の始原的物質から作られたと考えられています。 しかし、地球化学的研究により、地球マントルのフッ素や塩素などの揮発性元素の相対存在量は、コンドライトと一致しないことが示されています。 地球形成過程を模擬した高圧実験は、地球形成期に生じたマグマオーシャンが固化していく過程で鉱物-マグマ間でフッ素と塩素の分別が起こり、非コンドライト的な地球のF/Cl比が説明できることを示唆しています。
太陽系内の始原的物質であるコンドライトは、地球型惑星の材料物質であると考えられています。地球型惑星は金属核、マントル、地殻、そして大気海洋といった具合に化学的分化を経験しているため、惑星表面の一部の元素の相対存在量はコンドライトと同じではありません。言い換えれば、惑星表層の非コンドライト的な元素の相対存在量は、地球型惑星の化学的進化過程を理解するための鍵となります。
金属核を除いた地球のフッ素と塩素の比率はコンドライトよりも高いことが報告されています。このことは地球形成中または形成後に塩素と比較して、フッ素が濃集したことを示唆しています。しかし、そのような非コンドライト的な地球のF/Cl比がどのように達成されたのかはよくわかっていません。地球の非コンドライト的F/Cl比の起源を調べるために、愛媛大学、東京大学、そして海洋研究開発機構の研究者らはマルチアンビル高圧発生装置と呼ばれる実験装置を使用して地球形成過程で生じたと考えられているマグマの海“マグマオーシャン”が固化していく過程での鉱物-マグマ間のフッ素と塩素の分配を実験的に調べました。実験の結果、フッ素は地球のマントルで最も豊富に存在する鉱物であるブリッジマナイトと適合的である一方で、塩素はブリッジマナイトを含むすべてのマントルの鉱物にほとんど取り込まれないことが明らかとなりました。これは、マグマオーシャン固化過程で深部から結晶化したマントルがフッ素に富んでいたこと、そして塩素がマグマオーシャン含む惑星表面に集中したことを示しています。
マグマオーシャン結晶化後、地球の非コンドライト的なF/Cl比はどのように達成されたのでしょうか?本研究で我々は地球形成中に大気海洋の一部が宇宙空間に散逸した可能性を提案しました。このシナリオでは、大気海洋含む惑星表層に濃集した塩素が宇宙空間に選択的に失われる一方、フッ素は地球マントルに保持されるので、材料物質に比べて地球のF/Cl比が上昇します。興味深いことに、先行研究でも、地球の非コンドライト的なAr/Xe比を説明するために似たシナリオが提案されています(Shcheka and Keppler, 2012)。こうした結果は、地球形成最初期にできた大気海洋が現在の大気海洋とは異なっていたことを示唆しています。この場合、現在の地球の大気海洋は地球形成後のマントルからの脱ガスまたはその後に降着した天体によって供給された揮発性物質から形成された可能性が示唆されます。
参考 URL1: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X19303231
論文情報
【掲載誌】 Earth and Planetary Science Letters
【題名】Fluorine and chlorine fractionation during magma ocean crystallization: Constraints on the origin of the non-chondritic F/Cl ratio of the Earth (マグマオーシャン固化過程におけるフッ素と塩素の分別:非コンドライト的な地球のF/Cl比の起源への制約)
【著者】 Hideharu Kuwahara, Takanori Kagoshima, Ryoichi Nakada, Nobuhiro Ogawa, Asuka Yamaguchi, Yuji Sano, Tetsuo Irifune
【DOI】doi:10.1016/j.epsl.2019.05.041
助成金等
- Japan Society for the Promotion of Sciences (JSPS) KAKENHI Grant Number 15J06330, 18J00966, and 18K13635
図表等
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高圧条件下での鉱物-マグマ間で分配されるフッ素、塩素の質量比
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問い合わせ先
氏名 : 桑原 秀治
電話 : 080-5127-7793
E-mail : kuwahara@sci.ehime-u.ac.jp
所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター