江戸時代の歌舞伎がわかる役者評判記

五代目市川団十郎の舞台も追跡可能、江戸の舞台がよみがえります。

役者評判記は17世紀半ばから明治期にいたるまで250年にわたり継続的に毎年刊行され続けた歌舞伎役者の芸評書です。これにより歌舞伎の史的変遷、個々の歌舞伎役者の芸や動向などを追うことができる歌舞伎研究必須の基本資料として、その公刊が待たれていました。翻字・校訂を経た役者評判記本文テキストの公刊は1972年の『歌舞伎評判記集成 第一期』の刊行以来、50年になろうという学会の一大事業として継続されてきました。現在は役者評判記刊行会がその仕事を引き継ぎ、私もその一員として、『歌舞伎評判記集成 第三期』の刊行に取り組んでいるところですが、科学研究費補助金(研究成果公開促進費「学術図書」)を得て、その第三巻を和泉書院より20202月に刊行しました。

『歌舞伎評判記集成 第三期』の役者評判記は江戸時代中期の歌舞伎を対象としています。五代目市川団十郎が活躍した時代であり、例えば、1781年に出版された役者評判記『役者三ヶの角文字』をみると、「始終物も云はず少しの仕内なれど 引張り有てすさまじい物」と、無言のままに身体表現による相手役者との立て引きをみせた団十郎の演技の凄みが記録されています。また、「当時三升(※「三升(さんじょう)」は団十郞の俳名)の勢ひ世間一枚に贔屓する事 とかく何もかも三升(※「三升(みます)」は団十郎の紋所)を付る事とはなりぬ」と、団十郎が世間から絶大な人気を得ていたこと、さまざまなものに三升紋をモチーフとしてつけていたことなど(煙草入れや手拭いや煎餅など三升紋を入れたグッズが種々知られています)、当時の役者ファンのありようも描かれています。

この時代、文学の世界では江戸戯作が充実した展開を見せ、上方においては与謝蕪村や上田秋成らが登場、浮世絵の世界では東洲斎写楽が出現しました。江戸時代の文芸の研究においてもその時代背景にある歌舞伎文化を知ることは必須です。例えば、写楽が描いた役者の大首絵は有名ですが、いつ上演された芝居に取材したもので、どんな局面が描かれたのかなど、役者評判記を通して明らかになる情報も数多く記されています。

また、上方版の役者評判記にとどまらず、江戸版の役者評判記の刊行も見られるほか、数は多くないものの、名古屋や甲府など三都以外の地域の役者評判記が作成されるようにもなります。歌舞伎という文化の変遷、歌舞伎役者の芸の特徴、歌舞伎文化の諸相、歌舞伎という文化から新たに生み出された文芸の解釈、三都と地域の文化のつながりにみる問題など、多種多様な問題を提示してくれるのが役者評判記なのです。

論文情報

■書籍情報

タイトル:歌舞伎評判記集成 第三期 第三巻
著者名:役者評判記刊行会
ページ数:456頁
発売日:2020年2月20日

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究成果公開促進費(学術図書)19HP5020

図表等

  • 『歌舞伎評判記集成 第三期 第三巻』(和泉書院、2020年2月刊)

    『歌舞伎評判記集成 第三期 第三巻』(和泉書院、2020年2月刊)

    安永七年(1778)~安永十年(1781)に刊行された12点の役者評判記を収録

    credit : 役者評判記刊行会
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  • 役者評判記(『役者土地万両』)目録

    役者評判記(『役者土地万両』)目録

    筆頭役者として市川団十郎の名前がみえる。名前の上にある「至極上上吉」は位付(くらいづけ)と呼ばれる役者評判記の評点で、高得点であることを示す

    credit : 愛媛大学図書館蔵
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  • 役者評判記(『役者土地万両』)挿絵

    役者評判記(『役者土地万両』)挿絵

    画面左側の黒い衣裳の人物が「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助を演じる市川団十郎

    credit : 愛媛大学図書館蔵
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問い合わせ先

氏名 : 神楽岡 幼子
電話 : 089-927-9325
E-mail : kaguraoka.yoko.mg@ehime-u.ac.jp
所属 : 法文学部