有機ハロゲン化合物汚染によるバルト海産サケの影響は肝臓の遺伝子に記録されている

有機ハロゲン化合物(OHC)によるバルト海の環境汚染はそこに生息するタイセイヨウサケ(Salmo salar)の健康を脅かす一要因して考えられています。 一方、OHC汚染の影響に関する調査・研究は十分に実施されてきませんでした。沿岸環境科学センターの化学汚染・毒性解析部門の研究グループはフィンランドのヘルシンキ大学の研究者と共同で、バルト海の3海域から採取したタイセイヨウサケの人工孵化個体群および野生個体群を対象に、肝臓のOHC濃度と遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム)を測定しました。多変量解析の結果として、OHC濃度と遺伝子発現プロファイルは、3海域で個別にグループ化され、両データ間に強い相関関係が認められました。したがってバルト海のサケの肝臓の遺伝子発現プロファイルは、OHC汚染の影響を受けていることが示唆されました。本研究は、2020年11月9日にアメリカ化学会の学会誌Environmental Science & Technologyに掲載されました。

孵化場で飼育されたタイセイヨウサケ(Salmo salar)は バルト海のサケ資源を支えるために何十年にもわたって放流されています。サケは摂食移動中に有機ハロゲン化合物(OHC)に曝露されます。本研究では、バルト海の3海域(主海域・ボスニア海・フィンランド湾)から採取した野生および人工孵化由来のサケの肝臓におけるOHC濃度と遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム)を調査し、サケの由来(産卵地および人工孵化個体群・野生個体群)とOHC濃度が肝臓の遺伝子発現プロファイルに影響するかどうかを検討しました。その結果、人工孵化個体群と野生個体群の間でOHC濃度に大きな差は見られませんでしたが、海域間で大きな差が認められました。脂質代謝・アミノ酸代謝に関連する遺伝子の発現レベルは、OHCのなかでもポリ塩化ビフェニル(PCBs)・クロルデン化合物(CHLs)・ジクロロジフェニルトリクロロエタンおよびそれらの代謝産物(DDTs)の濃度に依存して変動していました。3海域で遺伝子発現プロファイルを比較すると、脂質代謝・環境ストレス・細胞増殖・アポトーシスに関連する遺伝子の発現量が異なっていました。肝臓のOHC濃度と遺伝子発現プロファイルを併せて多変量解析したところ、両データは同一海域内で採取した人工孵化個体群および野生個体群で類似していました。一方、OHC濃度と遺伝子発現プロファイルは、3海域で個別にグループ化され、両データ間に強い相関関係が認められました。これらの結果から、バルト海のサケ肝臓の遺伝子発現プロファイルは、サケの由来よりもOHC汚染の影響を受けていることが示唆されました。

参考 URL:https://dx.doi.org/10.1021/acs.est.0c04763

論文情報

Effects on the Liver Transcriptome in Baltic Salmon: Contributions of Contamination with Organohalogen Compounds and Origin of Salmon
Mirella Kanerva, Nguyen Minh Tue, Tatsuya Kunisue, Kristiina Vuori, and Hisato Iwata
Environmental Science & Technology, 54, 15246-15256, 2020, https://dx.doi.org/10.1021/acs.est.0c04763

助成金等

  • 日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究費(S)26220103
  • 日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究費(A)19H01150
  • 日本学術振興会科学研究費補助金 特別研究員奨励費 17F17731
  • 文部科学省共同利用共同研究事業Joint Usage/ Research Center-Leading Academia in Marine and Environment Pollution Research (LaMer)

図表等

  • バルト海の3地域から採取したサケの有機ハロゲン化合物濃度と遺伝子発現プロファイルの関係

    バルト海の3地域から採取したサケの有機ハロゲン化合物濃度と遺伝子発現プロファイルの関係

    サケの肝遺伝子発現プロファイルは有機ハロゲン化合物汚染の影響を受けている

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E-mail : kanerva.mirella_mariia.yt@ehime-u.ac.jp、iwata.hisato.mz@ehime-u.ac.jp
所属 : 沿岸環境科学研究センター