含水鉱物の高温高圧実験と地球深部への水の輸送

マントル遷移層の底(深さ約660 km)の圧力である22万気圧の高圧力下において、含水鉱物の一種であるアルミニウムに富んだD相の超音波伝播速度を測定しました。地球のプレート沈み込み帯の下では、しばしば地震波S波の伝播速度異常が観測されます。この伝播速度異常は、下部マントル最上部まで沈み込んだ、部分溶融リソスフェアの再結晶で生成されたアルミニウムに富んだD相の存在のためであることが、今回の測定によって示唆されています。アルミニウムに富んだD相による下部マントルへの水の運搬は、地球内部のダイナミクスに重要な役割を果たしています。それは、水(水素)は、弾性、レオロジー(物質の流動)、電気伝導度、溶融温度などのマントル鉱物の物理的・化学的特性に大きな影響を与えるからです。

ブラジルにおける超深部起源ダイヤモンドの中に見つかった含水リングウッダイト(深さ520-660kmのマントル遷移層下部の主要構成鉱物)の発見(Pearon他、2014Nature)以来、地球深部における水を含有・運搬できる鉱物の探索と同定に再度注目が集まっています。いくつかの候補鉱物の中で、高密度含水マグネシウムケイ酸塩(DHMS)が、浅部リソスフェアから深部マントル遷移層(深さ410-660 km)に渡る主要な水運搬鉱物と考えられています。ただし、DHMSは高圧高温では不安定な相のため、一般的に、マントル遷移層中部までの深さまでしか含水鉱物として存在できないとされてきました。

しかし、2014年にNature Geosciece誌に発表された実験結果(Pamato他)では、アルミニウムを含むDHMSは高温高圧安定性が劇的に上昇し、深さ1200 kmの下部マントルまで水を運搬できることを示しました。この実験では、下部マントル最上部の温度圧力条件において、沈み込んだスラブ(沈み込みプレート)とマントルの境界での含水溶融物から再結晶する、というプロセスでアルミニウムを含むDHMS(アルミニウムに富むD相、以下Al-D相)が形成されることを示しました。この形成プロセスは実験によって証明されましたが、Al-D相の地震波伝播速度の直接測定はされていなかったため、マントル遷移層底部や下部マントル最上部の地震波速度観測値をアルミニウムを含んだ含水岩石の存在で解釈することは困難でした。

今回、愛媛大学を中心とした研究グループは、兵庫県の大型放射光施設SPring-8のマルチアンビル型高圧合成装置での高温高圧その場観察実験と放射光X線実験を用いて、Al-D相のP波・S波速度と密度を22万気圧1300 Kまでの温度圧力での測定に成功しました。この高温高圧実験によって、広範な温度・圧力条件下でのAl-D相の地震波伝播速度の明確な理解ができたことで、沈み込みスラブの内部・外部の含水岩石の地震波速度をモデリングすることが可能になりました(図1)。下部マントル最上部におけるAl-D相を含む含水層は、地震学的に観測可能な負のS波速度異常(~1.5%)ならびに観測限界未満のP波速度異常(-0.5%)を示すことがモデリングから示されました。今回の実験で得られた結果と示唆は、沈み込んだリソスフェアがマントルの中をどのように移動するのか、さらに、地球下部マントルに水が存在するのか、といった地球深部ダイナミクスの未解決課題の解明につながります。

参考 URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2020GL088877

論文情報

掲載誌:Geophysical Research Letter

題名:Sound Velocities of Al-Bearing Phase D up to 22 GPa and 1300 K [ 22万気圧・1300 K(1000)に至る高温高圧条件下における、アルミニウムに富んだ含水D相の地震波速度測定]

著者:Chaowen Xu, Steeve Gréaux, Toru Inoue, Masamichi Noda, Wei Sun, Hideharu Kuwahara, Yuji Higo

DOI:10.1029/2020GL088877

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(18J12511, 26247073, 15H05828, 18H03740)
  • Open Foundation of the United Laboratory of High-Pressure Physics and Earthquake Science(2019HPPES07)
  • Natural Science Foundation of China(91958216)

図表等

  • 今回の実験で得られた含水相モデリングとマントル深部への水移送の模式図

    今回の実験で得られた含水相モデリングとマントル深部への水移送の模式図

    (a)アルミニウムに富んだ含水層(アルミニウムに富むD相を含む)と無水マントルの地震波S波速度差。パイロライト(h-pyrolite)とハルツバージャイト(h-harzburgite)の2種類のモデル岩石組成についての比較(b) 含水相と溶融体の間での水素の移動による、沈み込み帯での浅部リソスフェアから下部マントル最上部までの水の輸送過程の仮説メカニズム(Pamato2014から引用・修正)

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問い合わせ先

氏名 : Steeve Gréaux
電話 : 089-927-8405
E-mail : greaux@sci.ehime-u.ac.jp
所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター