地球のマントル遷移層はどのように変形するか?

愛媛大学とフランス・リール大学の研究者の共同によるこの研究は、地球の地下410~660kmのマントル遷移層の変形に関するもので、Earth and Planetary Science Letters誌に最近発表したものです。この研究では、マントル遷移層の主要鉱物であるウォズレアイト、リングウッダイト、メジャーライトガーネットのレオロジー(物質の変形や流動に関する性質)を精確に再検討するために、転位滑りの理論数値計算と原子拡散実験を組み合わせて、塑性特性のモデリングを行いました。

地殻の下から深さ2890kmに渡る地球のマントルは固体の岩石で構成されているにも関わらず、地球内部の放熱のために対流運動を行っています。この対流運動では、地表から冷たいプレートが沈み込むとともに熱いプルームが湧き上がるといった物質の移動であり、地震や火山活動といった地質学的な現象の原因となっています。これまでの地震学や鉱物物理学の先行研究によって、地球のマントルは(鉱物学的には)上部マントルと下部マントルの2つに分かれており、深さ410kmから660kmのマントル遷移層がその境であることが知られています。このマントル遷移層は上部と下部マントルの間の物質の移動を支配しており、マントル全体の対流の度合に影響を及ぼしています。地震波トモグラフィ(地震波を用いた地球内部のCTスキャン)によって、沈み込むプレート(スラブ)はマントル遷移層を突き抜けるものもあれば、遷移層の内部や直下で滞留するものもある、ということが分かってきました。しかし、なぜこのような違いが生じるのかは今のところ明らかになっていません。また、マントル遷移層の力学的特性の理解が十分ではないため、遷移層をはさんだ地球マントルのダイナミクスの理解は乏しいのが現状です。

この力学的特性は、「粘性率」というパラメータで典型的に記述される「クリープ」という鉱物の性質に依存しています。「クリープ」とは、比較的低い力学的応力に対する物質のゆっくりとした塑性的変形のことです。上部マントルのダイナミクスは、その主構成物質であるカンラン石(Mg2SiO4)の塑性変形の仕方で決まります。上部マントルの浅い部分の上部300kmは、「地震波異方性」として知られる、地震波速度の大きな方向依存性で特徴づけられます。それゆえ、上部マントル全体としては「転位クリープ」による変形が支配的であると一般的に考えられています。この転位クリープは結晶格子の回転、ひいては、鉱物の弾性的異方性の原因である、結晶の一定方向への選択配向をもたらします。転位クリープは結晶内の変形メカニズムで、「転位」と呼ばれる線欠陥が伝わっていくことによる変形です。この変形は、ある特定の方向や面に沿った転位のすべり運動と、すべり面から外れる向きへの原子拡散を伴う転位の上昇運動の両方が合わさったものです。実際に、2015年のBoioliらによる数値シミュレーションでは、上部マントル条件下でのMg2SiO4カンラン石の結晶内塑性はWeertman型の転位クリープで説明でき、そこでは転位の上昇運動が転位のもつれを解消することにより塑性歪が効果的に生成される、ということを示しました。

マントル遷移層の深さ410kmより下では圧力と温度が上昇し、カンラン石はその高圧相であるウォズレアイトに相転移します。そして深さ520kmより下ではさらにリングウッダイトに相転移します。より高密度な結晶構造を持つこれらの高圧相の変形の様式がカンラン石と同じかどうかは未だに明らかにされていません。この問いに答えるために、リール大学の塑性研究グループと愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターの研究者の共同チームは、実験による原子拡散データと熱によって活性化される転位すべり移動の数値計算を組み合わせました。そして、上部マントルのカンラン石とは異なり、カンラン石の高圧相の転位上昇速度は転位すべり速度を上回ることを示しました。これは、地質学的に適当な応力状態下においては、カンラン石の高圧相の転位クリープの様式は、Weertman型クリープではなく純上昇クリープ型が実現することを示唆します(図1)。塑性モデリングと実験による原子拡散データに基づき、今回の研究では、マントル遷移層の主要鉱物であるウォズレアイト、リングウッダイト、メジャーライトガーネットについて、粒子サイズに対する定常状態の変形様式を定量化しました(図2)。

これらのモデリングによって、マントル遷移層に関連するいくつかの重要な知見が説明可能になります。地質学的応力下での純上昇クリープによるウォズレアイト、リングウッダイト、メジャーライトガーネットの結晶内塑性から、それぞれの結晶粒子サイズが0.1mm以上であれば、マントル遷移層の粘性率が1021±1 Pa s と見積もられます。この値は、氷河期からの地表リバウンドなどから地球物理学的に推定される地球マントルのレオロジー特性とよく一致します。純上昇クリープは結晶格子の回転を起こさないので結晶の選択配向をもたらしません。それゆえ、このメカニズムによるマントル遷移層の変形様式は、上部マントルに比べると地震波速度が比較的等方的であるマントル遷移層の特徴と調和的です。また、遷移層内部においても、Weertman型クリープが卓越する特定の応力集中領域においては、結晶の選択配向が発達することも示しました。その領域例として、冷たい沈み込みスラブの周辺があげられます。そこでは沈み込みへの抵抗が発生するので、いくつかのスラブが遷移層の底部で滞留する理由として説明できます。一方、「拡散クリープ」と一般的に表現される、原子拡散による変形様式が卓越するような、粒子サイズが0.1mm以下の領域は、低い粘性率であることが予想されます。これは、冷たい沈み込みスラブの内部や、鉱物の相転移面周辺での流動ダイナミクスに影響すると思われます。

今回の研究で新たに明らかとなったこれらの粒子サイズ依存の変形メカニズムをマントル対流モデリングに組み込むことにより、上部マントルと下部マントルの相互作用や地球の化学的進化などの理解が大きく進むと期待されます。

参考 URL:https://doi.org/10.1016/j.epsl.2020.116438

論文情報

Deformation across the mantle transition zone: A theoretical mineral physics view、 Sebastian Ritterbex, Philippe Carrez and Patrick Cordier, Earth and Planetary Science Letters, 547, 116438, doi:10.1016/j.epsl.2020.116438, 2020 (October 2020).

助成金等

  • European Research Council (ERC) under the Seventh Framework Programme (FP 7) Grant Number 290424 RheoMan
  • Horizon 2020 research and innovation programme Grant Number 787198 TimeMan

図表等

  • (図1)ウォズレアイトとリングウッダイトにおける転位すべりと上昇速度の比

    (図1)ウォズレアイトとリングウッダイトにおける転位すべりと上昇速度の比

    (a) ウォズレアイトの½<111>{101}すべり系、(b) リングウッダイトの½ <110>{110}すべり系

    credit : Dr. S. Ritterbex (愛媛大学)
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  • (図)マントル遷移層条件下におけるウォズレアイト、リングウッダイト、メジャーライトガーネットの変形メカニズム(PCC: 純上昇クリープ、NHC: Nabarro-Herringクリープ、CC: Cobleクリープ)

    (図)マントル遷移層条件下におけるウォズレアイト、リングウッダイト、メジャーライトガーネットの変形メカニズム(PCC: 純上昇クリープ、NHC: Nabarro-Herringクリープ、CC: Cobleクリープ)

    (a) 15万気圧、1500 K におけるウォズレアイト、(b) 20万気圧、1700Kにおけるリングウッダイト、(c) 18万気圧、1600Kにおけるメジャーライトガーネット

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  • (図3)マントル遷移層での変形メカニズムの模式図

    (図3)マントル遷移層での変形メカニズムの模式図

    上部マントルのカンラン石と比較した、マントル遷移層でのウォズレアイト(Wd)、リングウッダイト(Rw)、メジャーライトガーネット(Mj)に予想される結晶内変形メカニズム

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問い合わせ先

氏名 : Sebastian Ritterbex
電話 : 089-927-8256
E-mail : ritterbex.sebastian_arthur_willem.us@ehime-u.ac.jp
所属 : 地球深部ダイナミクス研究センター