ペプチド中のDアミノ酸の検出を目指した世界初の多次元赤外円二色性分光装置

量子カスケードレーザーを用いたスキャン機能型の多次元赤外円二色性装置を開発しました

研究のポイント:
・キラリティ検出のために波数軸に加えてさらに時間軸と空間軸を追加した多次元赤外円二色性システム(熱光源と量子カスケードレーザーの切り替え可能なコンカレントシステム)を開発しました。
・水溶媒の影響をうけるアミドⅠ,Ⅱ領域において種々の試料形態に対応できる顕微技術の開発に成功しました。
・ジペプチドの固体状態においても高信頼性のシグナル検出ができるようになりました。アミドⅠ領域をはじめとして、シグナルの増大を見出し、アキラル部分のキラル誘導を確認しました。熱光源測定と比較して、測定時間も短縮できました。
・自動ステージ機能により空間をスキャンさせる測定手法を開発し、サンプル内の異なる位置でのキラリティの違いを検出することも可能となりました。

愛媛大学大学院理工学研究科 佐藤久子教授の研究グループは、日本分光株式会社 小勝負純部長、横浜国立大学大学院工学研究院 川村出准教授、北里大学理学部 吉田純講師との共同で、量子カスケードレーザーを用いたスキャン機能型の多次元赤外円二色性分光装置の開発に成功しました。

アミノ酸は、同一の化学式であってもL体とD体という左右対称な立体化学のものが存在する、キラリティという性質を有しています。タンパク質は、通常L体のアミノ酸(L-アミノ酸)が多数結合した生体高分子ですが、そのうちの1つがD体のアミノ酸(D-アミノ酸)に変異した場合に、それがタンパク質の構造や性質に与える影響については、生物物理学・医学分野で非常に重要なテーマになっています。例えば、これはアルツハイマー病の原因物質であるアミロイド線維の生成メカニズムの解明にもつながっています。佐藤教授らは、こうしたキラリティの解析を迅速かつ生体試料のままで行うためには新しい分光学的手段が必要との観点から、今回、“多次元赤外円二色性分光法”と呼ばれる測定装置を開発しました。従来型の装置では赤外波の波数に対してキラリティを測定していたものに、今回の装置ではさらに時間軸と空間軸を追加することに成功しました。

今後、この顕微スキャン技術を駆使して、従来手法では水溶媒の影響をうけて測定困難だったアミドⅠ,Ⅱ領域のシグナルを検出することで、種々の試料形態におけるキラリティ解析手法を確立することを目指しています。

生体機能発現においては、タンパク質の正しい折り畳みが不可欠です。間違った折り畳みでは正しく機能せず、生体内で異常を引き起こすこと可能性があります。その原因として、例えばタンパク質中のあるLアミノ酸がDアミノ酸に変異した場合など分子のキラリティの変化に起因するものが挙げられます。その例として、アルツハイマー病のアミロイドペプチドの会合体への影響などが報告されています。Dアミノ酸への変異が高次構造にどのような影響を与えるかの解析には新しい分光学的手段が望まれています。特にペプチド中のキラリティの検出には種々の手法を組み合わせたマルチモ-ダルな手法が必要です。

キラリティの検出手法として、熱光源を用いた赤外円二色性分光法がアミノ酸、糖、タンパク質など紫外可視部に吸収のない物質にも適用可能であるという利点が言われてきました。しかしながらシグナルが微弱、水溶媒での測定困難、固体での測定には種々の注意が必要というボトルネックがあり、汎用化への道はまだ遠いのが実情です。

国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST) 未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域の 研究開発課題「多次元赤外円二色性分光法の開発(研究開発代表者:佐藤久子)」プロジェクトにおいて、上記課題を解決するために、これまでの波数軸にさらに時間軸と空間軸を追加した多次元赤外円二色性装置の開発を目指してきました。特に、D-アミノ酸を含むペプチドの高次キラリティ解析手法の確立を目指しています。

参考 URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.analchem.0c02990

論文情報

Multidimensional Vibrational Circular Dichroism Apparatus Equipped with Quantum Cascade Laser and Its Use for Investigating Some Peptide Systems Containing D‑Amino Acids
Hisako Sato,, Masaru Shimizu, Keisuke Watanabe, Jun Yoshida, Izuru Kawamura and Jun Koshoubu
掲載誌:Analytical Chemistry
DOI:10.1021/acs.analchem.0c02990

助成金等

  • 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域の研究開発課題「多次元赤外円二色性分光法の開発」(研究開発代表者:佐藤久子)(JPMJMI18GC)

図表等

  • 装置の概略図

    装置の概略図

    開発した多次元赤外円二色性分光システムの外観及び概要

    credit : 佐藤 久子(愛媛大学)
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問い合わせ先

氏名 : 佐藤 久子
電話 : 089-927-9599
E-mail : sato.hisako.my@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科