pHに応答して性質を変化させるデンドロンポリマー

愛媛大学大学院理工学研究科の下元浩晃特任講師と井原栄治教授らの研究グループは、ジアゾカルボニル化合物をモノマーとするC1重合の手法を用いて、pHに応答して溶解性が変化する新しいデンドロンポリマーの合成に成功しました。本研究によって、いまだ不明な点が多く残るジアゾカルボニル化合物のC1重合における重合挙動に関する新たな知見が得られたと同時に、生成ポリマーがその構造的特徴に基づくユニークなpH応答挙動を示すことが明らかとなりました。これらの成果は、刺激応答性ポリマーの開発に対する新たな設計指針を与えるものであり、新規なスマート材料の創製への応用が期待されます。なお、本研究成果は、2020729日にアメリカ化学会が発行のMacromolecules誌電子版に掲載されました。

炭素―炭素結合を主鎖骨格にもつポリマーを合成する最も一般的な手法の一つに、ビニル重合があります。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの汎用プラスチックをはじめ、工業的に有用な多くのポリマーが、このビニル重合によって合成されています。この手法は、ビニル化合物をモノマーとするため、主鎖骨格が2炭素ユニットごと構築されます。一方で、当研究グループが世界に先駆けて開発したジアゾカルボニル化合物のC1重合の手法は、1炭素ユニットから主鎖を構築する手法です。そのため、すべての主鎖炭素上に官能基を導入することができ、一般的なビニルポリマー(多くの場合1炭素おきに官能基を有する)と比べて、官能基が集積した構造であることによる特徴的な性質や機能の発現が期待されます。

温度やpH、光、添加物などの外部刺激によって性質を変化させる刺激応答性ポリマーは、薬物輸送システム、センサー、再生医療などをはじめとするさまざまな技術へ利用されています。その刺激応答挙動は一般に、ポリマーの一次構造に依存して変化するため、より高性能な刺激応答性ポリマーの開発のためには、緻密な分子設計とそれを可能にする精密合成が必要不可欠です。しかし、ビニル重合においてはこれまでに種々の精密重合の手法が開発されてきているのに対し、比較的新しい合成技術であるジアゾカルボニル化合物のC1重合では、いまだ困難であるという課題がありました。このような状況の中、当研究グループは最近、シクロホスファゼンのような嵩高い置換基を有するジアゾカルボニル化合物のC1重合が、制御様式で進行することを見出しましたが、その重合が制御される理由については不明な点が多くありました。本研究では、別の嵩高い置換基としてデンドロン骨格を有するモノマーを新たに設計し、その重合挙動について詳細に検討しました。その結果、生成ポリマーの分子量分布はモノマーの嵩高さの増大(デンドロンの世代伸張)に伴って狭くなることが示されました。さらに、デンドロン表面へカルボキシ基を有するポリマーを合成することで、水中でpH応答性を示す新しいデンドロンポリマーの合成にも成功しました。また、その応答pHの値は、同じ側鎖構造を有するビニルポリマーに比べて低くなることを明らかにしました。これは、C1重合によって得られるポリマーでは、カルボキシ基が高密度に集積しているためであると考えられ、ポリマー骨格が刺激応答挙動へ及ぼす効果が明確に示されました。

以上の成果は、ジアゾカルボニル化合物のC1重合に関する新たな知見を与えるのみならず、刺激応答性ポリマーの設計指針に対して新たな知見を与えるものであり、今後さらなる展開が期待されます。

論文情報

Pd-Initiated Polymerization of Dendron-Containing Diazoacetates to Afford Dendronized Poly(substituted methylene)s with Narrow Molecular Weight Distribution and Its Application to Synthesis of pH-Responsive Dendronized Polymers, Hiroaki Shimomoto,* Ryo Hohsaki, Daisuke Hiramatsu, Tomomichi Itoh, and Eiji Ihara*, Macromolecules, doi: 10.1021/acs.macromol.0c01029, 2020 (July 29).

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B)16K17916
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)18H02021
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)19K05586
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)19K22219

図表等

  • ビニル重合とC1重合

    ビニル重合とC1重合

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  • pH応答性デンドロン側鎖を有するポリ(置換メチレン)

    pH応答性デンドロン側鎖を有するポリ(置換メチレン)

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問い合わせ先

氏名 : 下元 浩晃
電話 : 089-927-9949
E-mail : shimomoto.hiroaki.mx@ehime-u.ac.jp
所属 : 大学院理工学研究科