身体の中のタンパク質の形態を一網打尽に調べる

日米英の国際共同研究による新規プロテオフォーム解析法の開発

愛媛大学、米国国立高磁場研究所(NHMFL)、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校、英国リバプール大学からなる国際共同研究グループは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離されたタンパク質をインタクトの状態で迅速かつ効率的に回収し、質量分析でその配列を解読する新しい方法を開発しました。本研究は米国化学会(ACS)の学術雑誌「Journal of Proteome Research9月号に掲載され、『ACS Editors' Choice』に選出されました。『ACS Editors' Choice』は、化学の変革の力を通じて人々の生活を向上させるというACSのコミットメントに則した優れた研究成果に与えられます。

私たち人間の体内では、遺伝子の配列情報に基づいて多種多様なタンパク質が作り出され、生命活動を支えています。生体内においてタンパク質は、リン酸や糖鎖などの様々な分子によって修飾されることによってその構造や活性を変化させ、生理的な機能を発揮します。そのため、生命システムの精巧な働きを分子レベルで理解するためには、生体内におけるタンパク質の多種多様な形態(プロテオフォーム)を正確に把握することが極めて重要となります。しかしヒトの遺伝子(約20,000種類)から最終的にどれだけのプロテオフォームがつくりだされるのかについては、現在のところまだよくわかっていません。

トップダウン質量分析は、タンパク質の完全長配列を詳細に解読するための画期的な分析法として現在注目されており、高感度化に向けた技術開発が世界的に進められています。近年では、国際コンソーシアム(Consortium for Top-Down Proteomics)によりトップダウン質量分析を用いてヒトのプロテオフォームを包括的に解析する試み(トップダウンプロテオミクス)がスタートし、その成果として病気に特異的なプロテオフォームの存在も徐々に明らかとなってきました。しかし生体内のタンパク質成分は極めて複雑であり、トップダウン質量分析により低濃度のタンパク質を解析することは未解決の課題でした。

我々は、タンパク質を高分解能に分離することができるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法を活用することにより、生体サンプルから抽出したタンパク質成分を詳細に分画する技術を新たに開発しました。さらに開発技術をトップダウン質量分析と組みわせることにより、生体試料に含まれる微量なプロテオフォームを高感度に解析するための新規トップダウンプロテオミクス解析法(PEPPI-MS法)を確立しました。

次に米国国立高磁場研究所(NHMFL)のLissa C. Anderson博士との共同研究において、NHMFLが保有する世界最高分解能のフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析システム(21 tesla FT-ICR)を活用した高分解能PEPPI-MS法を開発することにより、大腸菌から抽出した極めて微量なタンパク質試料を解析対象として、1000を超えるプロテオフォームを検出することに成功しました。さらにPEPPI-MS法とネイティブ・ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(非変性状態でおこなうタンパク質のゲル電気泳動)を組み合わせることにより、生体試料中の目的タンパク質複合体を回収して、質量分析によりその構造を解析することにも成功しています。

参考 URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jproteome.0c00303

論文情報

掲載誌: Journal of Proteome Research

タイトル: PEPPI-MS: Polyacrylamide-Gel-Based Prefractionation for Analysis of Intact Proteoforms and Protein Complexes by Mass Spectrometry

著者: Ayako Takemori, David S. Butcher, Victoria M. Harman, Philip Brownridge, Keisuke Shima, Daisuke Higo, Jun Ishizaki, Hitoshi Hasegawa, Junpei Suzuki, Masakatsu Yamashita, Joseph A. Loo, Rachel R. Ogorzalek Loo, Robert J. Beynon, Lissa C. Anderson*, and Nobuaki Takemori*(* Corresponding authors)

DOI: 10.1021/acs.jproteome.0c00303

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術研究領域「分子夾雑の生命化学」 18H04559
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 16K08937
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 19K05526

図表等

  • PEPPI-MSにより得られたDrosophila複眼組織プロテオーム分画のゲル電気泳動イメージ(JPR Supplementary Cover)

    PEPPI-MSにより得られたDrosophila複眼組織プロテオーム分画のゲル電気泳動イメージ(JPR Supplementary Cover)

    我々は、ポリアクリルアミドゲルからインタクトなタンパク質を迅速かつ効率的に抽出する新規手法(PEPPI-MS)を確立しました。この方法は、PAGEによる高分解能タンパク質分離後に、広範囲の分子量領域からインタクトなタンパク質を効率的に回収することを可能にしており、複雑な生体サンプルの詳細なトップダウンプロテオミクス解析を実現します。

    credit : Journal of Proteome Researchの許可を得て掲載。© 2020 American Chemical Society
    Usage Restriction : ACSの使用許可を得てください

問い合わせ先

氏名 : 武森 信曉
電話 : 089-960-5499
E-mail : takemori@m.ehime-u.ac.jp
所属 : 学術支援センター