スナメリに蓄積する環境汚染物質が細胞死を誘発

瀬戸内海に漂着したスナメリの細胞を用いて野生個体群に対する汚染物質の脅威を予測

環境汚染物質の体内蓄積は海棲哺乳類の健康の脅威となっています。 一方、その毒性影響に関する調査・研究は十分ではありません。愛媛大学沿岸環境科学センター(CMES)の研究チームは、瀬戸内海に生息する小型鯨類のスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)から線維芽細胞を培養し、環境汚染物質による影響を調査しました。結果として、瀬戸内海のスナメリの体内に蓄積されたポリ塩化ビフェニル(PCBs)と農薬・殺虫剤の一種であるジクロロジフェニルトリクロロエタンおよびそれらの代謝産物(DDTs)の濃度が細胞レベルで悪影響を及ぼしている可能性が高いことが明らかになりました。本研究は、2020年4月27日にアメリカ化学会の学会誌Environmental Science & Technologyに掲載されました。

残留性有機汚染物質(POPs)などの環境汚染物質は、鯨類の体内に高濃度で蓄積することが知られています。なかでも瀬戸内海に生息するスナメリのPOPs濃度は、日本近海に分布する他のイルカよりも高く、毒性影響が懸念されています。しかしながら、野生のイルカを対象とした毒性学的調査は、法的および倫理的配慮により困難であり、情報が不足しています。愛媛大学沿岸環境科学研究センターの研究チームは、瀬戸内海沿岸に死亡漂着したスナメリから線維芽細胞を培養することに成功し、瀬戸内海のスナメリ個体群で影響が懸念されている汚染物質について、リスクを明らかにしました。

細胞培養と汚染物質への曝露

ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)、PCBsPCBsの代謝物(OH-PCBs)、臭素化難燃剤(ポリ臭化ジフェニルエーテル PBDEs)、農薬・殺虫剤(DDTs)、およびメチル水銀をスナメリの線維芽細胞に曝露し、細胞毒性を評価しました。

スナメリ線維芽細胞に対する環境汚染物質の影響

多くの汚染物質は高濃度で細胞死を引き起こし、ダイオキシン様化合物(2,3,7,8-TCDDおよびダイオキシン様PCBs)は他の化学物質よりも強い細胞毒性を示しました。OH-PCBsとその親化合物であるPCBsの毒性には差があり、これらの化合物は異なるメカニズムによって細胞毒性を引き起こしていることが予想されました。多くの鯨種において比較的高濃度で蓄積しているDDTsについても、用量依存的な細胞損傷が確認されました。DDTsのなかでは、p,p’-DDTは細胞毒性に対して最も強力でしたが、p,p’-DDEは特に細胞生存率に影響を与えました。メチル水銀については、最高濃度(100μM)で細胞壊死を誘発しました。

瀬戸内海スナメリ個体群のリスク評価

環境汚染物質への曝露が瀬戸内海のスナメリ個体群に及ぼす影響について調査するために、曝露—活性比(EAR)を推定しました。EARは細胞毒性が観察された濃度と動物体内の化学物質濃度を比較することにより算出でき、リスクの高い化学物質を選定することが可能となります。EAR推定の結果、瀬戸内海のスナメリに対しては、PCBsDDTsが細胞毒性(細胞死、アポトーシスおよび細胞生存率の低下)の誘発に寄与している高リスク化合物であることがわかりました。

本研究は、死亡漂着したスナメリから培養された線維芽細胞を用いて、環境汚染物質のリスクを評価することに成功しました。今後は、スナメリだけではなく、他の海棲哺乳類についても汚染物質のリスクをより詳細かつ包括的に理解することが急務であり、リスクの高い汚染物質の海洋負荷を減らす対策を講じることが必要です。

参考 URL:https://doi.org/10.1021/acs.est.9b07471

論文情報

In vitro cytotoxicity and risk assessments of environmental pollutants using fibroblasts of a stranded finless porpoise (Neophocaena asiaeorientalis) (漂着スナメリから培養した線維芽細胞を用いた環境汚染物質のin vitro細胞毒性評価およびリスク評価),Mari Ochiai, Nozomi Kurihara, Masashi Hirano, Akifumi Nakata, and Hisato Iwata, Environmental Science & Technology, 54 (11), 6832-6841, DOI: 10.1021/acs.est.9b07471, 2020 (April 27).

助成金等

  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)若手研究18K18201
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(S)26220103
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(A)19H01150
  • 住友財団環境研究助成163341
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

図表等

  • 環境汚染物質への曝露によるスナメリ線維芽細胞の細胞毒性とリスク評価

    環境汚染物質への曝露によるスナメリ線維芽細胞の細胞毒性とリスク評価

    環境汚染物質への曝露によるスナメリ線維芽細胞の細胞毒性とリスク評価

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