脱皮殻を背負う幼虫!?その奇妙な行動のしくみを解明

~脱皮殻をリサイクルして自切をする可能性~

愛媛大学農学部 吉田貴大研究員とランドケアリサーチ(ニュージーランド)のR. A. B. Leschen博士の研究チームは、オオキノコムシ科の小型甲虫Toramus属とLoberoschema属の幼虫形態を明らかにしました。

さらに、Toramus属の幼虫は全ての脱皮殻を腹端部に積み重ねており、これらの脱皮殻が4本のフック型の刺毛で保持されていることを解明しました。この積まれた脱皮殻は、天敵の攻撃に対して切り離される、つまり“自切”する可能性が示されました。これが事実であれば、既知の尾部自切(トカゲなどの尻尾切り)および付属肢自切(節足動物の脚や触角などの切捨て)とは異なる、新たな現象“脱皮殻自切”の発見となります。

本研究は、2020325日にアメリカ甲虫学会の学会誌The Coleopterists Bulletinに掲載されました。

オオキノコムシ科(甲虫目:ヒラタムシ上科)は形態・生態的に多様なグループで、3,500種以上が知られています。本科のマルキスイムシ族は、熱帯域を中心に、世界各地に生息するグループで、450種以上が含まれています。本族の生態は謎に包まれており、とくに、幼虫の生態については、「Toramus属とLoberoschema属の幼虫は腹部の上に脱皮殻を保持する」という簡単な記述しか今まで知られていませんでした。

本研究では、本族のToramus3種(日本産・メキシコ産・コスタリカ産)とチリのLoberoschema1種の幼虫形態を解明しました(図1)。また、他族の幼虫形態と比較することで、本族やToramus属で共有されていると考えられる幼虫の形態的特徴を議論しました。さらに、Toramus属は調査した3種とも脱皮殻を腹部に付着させることが確認されました。この幼虫の行動は、Toramus属内で共通してみられる行動である可能性が高いと考えられます。

図2は沖縄で採集したヨツボシケナガキスイToramus quadriguttatusの生きた幼虫の写真です。このように、Toramus属の幼虫は全ての齢期の脱皮殻を図2のように立体的に積み重ねることが判明しました。また、2齢以降のToramus属の幼虫は、腹部の先端近く(第8腹節背板)に根元で前方に反り返ったフック型の毛が4本生えており、これらの毛が脱皮の際に脱皮殻の割れ目に引っ掛かることで、脱皮殻が保持されていることが分かりました(図3)。

それでは、なぜToramus属の幼虫は脱皮殻を背負うのでしょうか?これまで、脱皮殻を付ける幼虫は、カメムシ、ウスバカゲロウ、ガ、本科以外の甲虫でも、僅かながら知られていました。しかし、それらの脱皮殻保持の意義は、隠蔽効果が証明された例はあるものの、ほとんどの種で根拠なく隠蔽効果だと推測されるか未解明な状況です。また、脱皮殻保持方法もパターンがあり、隠蔽効果が証明された幼虫は脱皮殻をゴミと共に身体に纏わせます。それに対して、本属の幼虫はかなり変わった脱皮殻保持をしており、身体を覆うことなく、尾のように、後ろで持ち上げることが特徴です(図2)。そこで、研究チームは、本属の幼虫は、天敵に攻撃された際に、脱皮殻を切り離して逃げ去る、つまり“自切”するのではないかと考えました。

これまで、自切には、トカゲの尻尾切りで有名な“尾部自切”と、節足動物が脚や触角などを切り捨てることによる“付属肢自切”の二種類が知られていました。これらの自切する部位には、即座に切れるように、壊れやすい構造が備わっています。先述の通り、本属の幼虫の脱皮殻は、4本の刺毛のみで繋がっているため、刺毛が壊れたり抜けたりすることで、比較的簡単に脱落します。観察した幼虫の中にも、いくつかの脱皮殻が脱落した個体も散見されました。これらの事実からも、本属の幼虫の脱皮殻は自切として機能しうることが示されます。そこで、脱皮殻を自切のため用いる可能性を示唆し、新たな現象“脱皮殻自切”を提唱しました。

しかし、“脱皮殻自切”の証明には、天敵を用いた行動実験によって、脱皮殻の切捨てが幼虫の生存率を高めることを示す必要があります。本論文では、予備的な実験を実施したものの、残念ながら、“脱皮殻自切”を支持できる結果は得られませんでした。“脱皮殻自切”の証明には、さらなる研究が望まれます。

論文情報

Larval Descriptions and Exuvial Retention of Toramini (Coleoptera: Erotylidae: Cryptophilinae)., Yoshida, Takahiro, and Leschen, Richard A. B., The Coleopterists Bulletin, 74(1): 1-14, https://doi.org/10.1649/0010-065X-74.1.1, 2020 (March 25).

助成金等

  • 日本学術振興会特別研究員奨励費(DC1)(JP 15J07633)
  • 2018年度笹川科学研究助成(日本科学協会)(研究番号2018-5026)

図表等

  • 図1.調査した種の幼虫と成虫の形態

    図1.調査した種の幼虫と成虫の形態

    Toramus属(A~C)とLoberoschema属(D)の幼虫全形図(上段)と成虫写真(下段)。 Toramus属は、 日本産(A:ヨツボシケナガキスイ T. quadriguttatus)、コスタリカ産(B)とメキシコ産(C)。スケール:0.5 ㎜(幼虫)、1.0 mm(成虫)

    credit : The Coleopterists Society
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  • 図2.脱皮殻を保持するヨツボシケナガキスイの 4齢幼虫

    図2.脱皮殻を保持するヨツボシケナガキスイの 4齢幼虫

    脱皮殻を保持するヨツボシケナガキスイの 4齢幼虫。脱皮殻の数で齢期が推定できる。

    credit : The Coleopterists Society
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  • 図3.ヨツボシケナガキスイの4齢幼虫と脱皮殻の電子顕微鏡画像

    図3.ヨツボシケナガキスイの4齢幼虫と脱皮殻の電子顕微鏡画像

    ヨツボシケナガキスイの4齢幼虫と脱皮殻の電子顕微鏡画像。矢印で示した毛(薄緑で着色がフック型の刺毛で、完全に挿入された様子(左下)と部分的に外れて湾曲部が露出した様子(右上)。1齢幼虫の毛は フック型にならず、単純な形状(右下)。

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問い合わせ先

氏名 : 吉田 貴大
電話 : 090-3627-0795
E-mail : yoshida_toritoma@yahoo.co.jp
所属 : 農学部